平成13年度、問題回答集1〜10

【No.1】
A・B・Cが、持分を6・2・2の割合とする建物の共有をしている場合に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。

1. Aが、B・Cに無断で、この建物を自己の所有としてDに売却した場合は、その売買契約は有効であるが、B・Cの持分については、他人の権利の売買となる。

2. Bが、その持分に基づいて単独でこの建物全部を使用している場合は、A・C は、Bに対して、理由を明らかにすることなく当然に、その明渡しを求めることができる。

3. この建物をEが不法占有している場合には、B・Cは単独でEに明渡しを求めることはできないが、Aなら明渡しを求めることができる。

4. 裁判による共有物の分割では、Aに建物を取得させ、AからB・Cに対して適正価格で賠償させる方法によることは許されない。



正解@

1 ○ 他人と共有する建物を自己の所有物として売却する行為は、他の共有者の持分については他人の権利の売買(他人物売買)となる。他人物売買も民法上は有効な契約である。有効である からこそ、他人の権利の売主が権利を移転できなかった場合の担保責任が定められている(民法561条)。なお、他人の権利を賃讃する契約(他人物賃貸)も有効な契約であることに注意。

2 × 各共有者は、共有物の全部につき持分の割合に応じて使用収益をすることができる。共有者の1人が他の共有者の使用収益を排除して独占することば認められないが、本肢のBも共有物の使用収益をする権利は有している。
 したがって、AやCが明渡しを求めてBを全面的に排除することは当然には認められない(判昭45・5・19)。

3 × 共有物を不法に占拠している者に対して明渡しを求めることは、共有物の保存行為に該当し、持分の割合に関係なく各共有者が単独でできる。

4 × 共有物の分割を行う場命には、共有物そのものを分割する現物分割が原則だが、共有物の性質等を総合的に考慮し、またその価格が適正に評価され、取得者に支払い能力があるなどの特段の事情存するときは、共有物を共有者の1人又は数人の所有とし、他の者には持分の価格を賠償させる方法(全面的価格賠償)による分割も許される。(判平8・10・31)。


【No.2】
Aが、Bに住宅用地を売却した場合の錯誤に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。

1. Bが、Aや媒介業者の説明をよく聞き、自分でもよく調べて、これなら住宅が建てられると信じて買ったが、地下に予見できない空洞(山、防空壕)があり、建築するためには著しく巨額の費用が必要であることが判明した場合、Bは、売買契約は錯誤によって無効であると主張できる。

2. 売買契約に要素の錯誤があった場合は、Bに代金を貸し付けたCは、Bがその錯誤を認めず、無効を主張する意思がないときでも、Aに対し、Bに代位して、無効を主張することができる。

3. Aが、今なら課税されないと信じていたが、これをBに話さないで売却した場合、後に課税されたとしても、Aは、この売員契約が錯誤によって無効であるとはいえない。

4. Bは、代金をローンで支払うと定めて契約したが、Bの重大な過失によりローン融資を受けることができない場合、Bは、錯誤による売買契約の無効を主張することばできない。



正解 2

1 ○ Bが、売主Aや媒介業者の説明をよく聞き、自分でもよく調べたという本肢の記述から、Bには過失はないというべきである。錯誤による意思表示の無効は、その錯誤が要素の錯誤であり、表意者に重過失がなければ主張することができる。木肢の場合には、 住宅用地として購入した土地が、建築物の建築に著しく巨額の贅用が必要であるという点で要素の錯誤ということができ、表意者Bに重過失もない。したがって、Bは錯誤により無効の主張が可能である。

2 × 錯誤による意思表示の無効は、表意者を保護するために認められたものである。本肢のように表意者自身が要素の錯誤を認めていない以上、第三者である債権者が無効を主張することは認められない。たとえ表意者が無効を主張する意思がない場合でも、要素の錯誤を認めているのであれば、債権者は表意者に代位して無効を主張することが可能である(判45・3・26)。

3 ○ 本肢の場合には、宅地売却の動機に錯誤がある場合と考えられる。動機の錯誤について、判例は、その動機が意思表示の内容として相手方に表示された場介に限り要素の錯誤となり、無効の主張ができるとしている(判昭29・11・26)。本肢では、Aは、Bに動機を表示していない以上、無効の主張はできない。

4 ○ ローンが成立するか否かについての錯誤は要素の錯誤にあたるが、Bは重過失がある以上、無効の主張はできない。


【No.3】
 A所有の甲地は袋地で、Aが所有していない回りの土地(囲続地)を通る通路を開設しなければ公道に出ることができない。この場合、民法の規定及び判例によれば、次の記述のうち正しいものはどれか。

1. 1Aは、囲続地の所有者に代償を支払えば、自己の意思のみによって通行の場所及び方法を定め、囲続地に通路を開設することができる。

2. Bが、Aから甲地を譲り受けた場合には、Bは、所有権移転の登記を完了しないと、囲続地に通路を開設することができない。

3. 甲地が、A及びCの共有地の分割によって袋地となったときには、Aは、Cが所有する分割後の残余地にしか通路を開設することができない。

4. 甲地が、D所有の土地を分筆してAに売却した結果、袋地になった場合で、D が、甲地の譲渡後、その残余地である乙地をEに売却したときには、Aは乙他に通路を開設することができない。



正解 3

1 × 公道に至るための他の土地の通行券権(囲繞地通行権)は、権利者の意思にかかわりなく囲んでいる土地(囲繞地)を通行する権利であるから、できるだけ権利者に迷惑がかからないようにしなければならない。そのため通行の場所や方法は、必要にして最も損害の少ないものでなければならず、通路を開設する場合にもその必要がある場合に限定される(民法211条1項、2項)。これは代償を支払った場合でも同じである。なお、本問出題時の「囲続地」は、現行法では「土地を囲んでいる他の土地」とされている。

2 × 登記の有無にかかわらず、袋他の所有権を取得したという事実があれば発生する権利である(最判昭47・4・14)。

3 ○ 共有地の分割によって袋地が生じた場合には、袋地の所有者は、他の分割者の所有地のみを通行することができる(民法213条1項)。これは、土地の一部が譲渡された結果として袋地が生じた場合も同じである(同条2項)。

4 × 土地の一部が譲渡された結果として袋地が生じた場合でも、譲渡者の所有地のみを通行できる。この囲続地通行権は、その後譲渡者が残余地を第三者に譲渡した場合でも消滅しないと解されている(判、平2・11・20)。


【No.4】
 AとBとが共同で、Cから、C所有の土地を2,000万円で購入し、代金を連帯して負担する(連帯債務)と定め、CはA・Bに登記、引渡しをしたのに、A・Bが支払をしない場合の次の記述のうち、民法の規定によれば、正しいものはどれか。

1. Cは、Aに対して2,000万円の請求をすると、それと同時には、Bに対しては、全く請求をすることができない。

2. AとBとが、代金の負担部分を1,000万円ずつと定めていた場合、AはCから2,000万円請求されても、1,000万円を支払えばよい。

3. BがCに2,000万円支払った場合、Bは、Aの負担部分と定めていた1,000万円及びその支払った日以後の法定利息をAに求償することができる。

4. Cから請求を受けたBは、Aが、Cに対して有する1,000万円の債権をもって相殺しない以上、Aの負担部分についても、Bからこれをもって相殺することはできない。


正解 3
1 × 本肢の場合の債権者であるCは、連帯債務者の1人に対して、又は全員に対して、同時に又は順次に、全部又は一部の履行を請求することができる。

2 × 連帯債務者の1人は、債権者から全額の請求をされた場合には、その全額を支払わなければならない。負担部分の定めはあくまで連帯債務者同士の内部関係であって、債権者対して主張することはできない。

3 ○ 連帯債務者の1人が自己の負担部分を超えて弁済した場合には、他の連帯債務者に対して、その負担部分について求償することができる(民法442条1項)。この場合には、弁済の日以後の法定利息及び避けることのできなかった費用その他の損害の賠償を請求することができる(同条2項)。

4 × 連帯債務者の1人が、債権者に対して反対債権を有している場合には、反対債権を有している連帯債務者が相殺しないときでも、他の連帯債務者は、反対債権を有する連帯債務者の負担部分を限度として相殺することができる。


【No.5】 AからB、BからCに、甲地が順次売却され、AからBに対する所有権移転登記がなされた。この場合、民法の規定及び判例によれば、次の記述のうち誤っているものはどれか。

1. Aが甲地につき全く無権利の登記名義人であった場合、真の所有者Dが所有権登記をBから遅滞なく回復する前に、Aが無権利であることにつき善意のCがBから所有権移転登記を受けたとき、Cは甲地の所有権をDに対抗できる。

2. BからCへの売却後、AがAB間の契約を適法に解除して所有権を取り戻した場合、Aが解除を理由にして所有権登記をBから回復する前に、その解除につき善意のCがBから所有権移転登記を受けたときは、Cは甲地の所有権をAに対抗できる。

3. BからCへの売却前に、AがAB間の契約を適法に解除して所有権を椒り戻した場合、Aが解除を理由にして所有権登記をBから回復する前に、その解除につき善意のCがBから甲地を購入し、かつ、所有権移転登記を受けたときは、Cは甲地の所有権をAに対抗できる。

4. BからCへの売却前に、収得時効の完成により甲地の所有権を蝦得したEがいる場合、Eがそれを理由にして所有権登記をBから取得する前に、Eの取得時効につき善意のCがBから甲地を購入し、かつ、所有権移転登記を受けたときは、Cは甲地の所有権をEに対抗できる。



【No.5】
正解1
1 × 本肢の場合には、初めから甲他の所有権はDから動いていない。つまりAはまったくの無権利者であり、無権利者Aから買い受けたBも、Aと同じく無権利者である。さらに、無権利者Bから買い受けて所有権移転登記を得たCも、A・B同様に無権利者にすぎない。このような場合には、Dは、登記名義が移転されているのを知りながら放置したといったような特別な事情がない限り権利を失うことばなく、Cは、登記に公信力が認められないわが国の登記制度の下では権利を得ることはない。言い換えればCはDに対抗できないのである。

2 ○ 民法545条1項但書は、解除が行なわれた場合の原状回復によって、解除前に
目的物の権利を取得した第3者の権利を害することはできない旨を定めている。そして本条によって第三者が保護を受けるためには善悪は問わないが、登記を得ていなければならないと解されている(判10・5・17)
 本肢のCは登記を得ており、本条により保護されることになる。

3 ○ 本肢のCは、肢2のCとは異なり、解除後に目的物の権利を取得した第三者である。この場合に判例は、民法177条の対抗問題と考えており、先に登記を得た方が優先することになる。(最判昭35・11・29)。

4 ○ Bは、Eの取得時効完成時の所有者(旧所有者)である。本肢のEのように取得時効によって所有権を取得した者と、時効完成後に旧所有者から権利を収得した者との関係は民法177条の対抗関係と考えられている(最利昭33・8・28)。したがってCが先に登記を得た場合には、CはEに優先することになる。


【No.6】
 契約当事者が死亡した場合に関する次の記述のうち、民法の規定によれば、誤っているものはどれか。

1. 委任契約において、委任者又は受任者が死亡した場合、委任契約は終了する。
2. 使用賃借契約において、貸主又は借主が死亡した場合、使用貸借契約は効力を失う。
3. 組合契約において、組合員が死亡した場合、当該組合員は組合契約から脱退する。
4. 定期贈与契約(定期の給付を目的とする贈与契約)において、贈与者又は受贈者が死亡した場合、定期贈与契約は効力を失う。


【No.6】
正解 2
1 ○ 委任契約の終了事由は、委任者については、@死亡、A破産手続開始の決定を受けたことであり、受任者については、@死亡、A破産手続開始の決定を受けたこと、B成年後見聞始の審判を受けたこと、である(民法653条)。

2 × 使用貸借契約は借主の死亡によって効力を失うが、貸主の死亡によって効力を失うことばない(民法599条)。

3 ○ 組合員の脱退事由は任意脱退(民法678条)のほか、非任意脱退事由として組合員の@死亡、A破産手続開始の決起を受けたこと、B成年後見開始の審判を受けたこと、C除名が定められている(同679条1項)。

4 ○ 延期の給付を目的とする贈与は、贈与者又は受贈者の死亡によって効力を失う(民法552条)。



【No.7】
 Aは、Bから3、000万円の借金をし、その借入金債務を担保するために、A所有の甲地と、乙地と、乙地上の丙建物の上に、いずれも第1順位の普通抵当権(共同抵当)を設定し、その登記を経た。その後甲地については、第三者に対して第2順位の抵当権が設定され、その登記がされたが、第3順位以下の担保権者はいない。この場合、民法の規定によれば、次の記述のうち誤っているものはどれか。

1. 甲地が1、500万円、乙地が2,000万円、丙建物が500万円で競売され、同時に代価を配当するとき、Bはその選択により、甲地及び乙地の代金のみから優先的に配当を受けることができる。

2. 甲地のみが1、500プ了円で競売され、この代価のみがまず配当されるとき、Bは、甲地にかかる後順位抵当権者が存在しても、1、500万円全額(競売費用等は控除)につき配当を受けることができる。

3. Bは、Aの本件借入金債務の不履行による遅延損害金については、一定の場合を除き、利息その他の定期金と通算し、最大限、最後の2年分しか、本件登記にかかる抵当権の優先弁済権を主張することができない。

4. Bと、甲地に関する第2順位の抵当権者は、合意をして、甲地上の抵当権の順位を変更することができるが、この順位の変更は、その登記をしなければ効力が生じない。


正解1

1 × 本問は共同抵当に関する出題である。共同抵当の場合に複数の不動産から同時に配当を受けるとき(同時配当)は、優先弁済を受ける金額は、それぞれの不動産の価額に応じて按分することになる(民法392条1項)。本肢にあるように抵当権者Bの作意の選択によって、一部の不動産の代金から優先的に配当を受けることはできない。
 これを認めると、後順位の担保権者は白己が受けることができる配当の予測がつかなくなってしまうのである。

2 ○ 共同抵当の目的物となっている不動産の一部のみが競売され、その代価がまず配当されるとき(異時配当)には、共同抵当権者Bは、被担保債権の全額についてその競売代金から弁済を受けることができる(民法392条2項)。なお、異時配当の場合には、競売された不動産について後順位の抵当権を有する者は、肢1の同時配当の場合に弁済を受ける金額に至るまで、すでに配当を受けた共同抵当権者に代位してその抵当権を実行することができる。

3 ○ 抵当権者が、債務不履行に基づく遅延損害金などの損害賠償請求権を有する場合には、利息その他の定期金と通算して、最後の2年分についてしか優先弁済権を主張することはできない(民法375条)。

4 ○ 抵当権の順位の変更は、登記をすることで初めて効力を生じる(民法374条1項、2項)。この場合の登記は、単なる対抗要件ではなく効力発生要什なのである。


【No.8】
 Aが、B所有の建物の売却(それに伴う保存行為を含む。)についてBから代理権を授与されている場合に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。

1. Aが、Bの名を示さずCと売買契約を締結した場合には、Cが、売主はBであることを知っていても、売員契約はAC間で成立する。

2. Aが、買主Dから虚偽の事実を告げられて売買契約をした場合でも、Bがその事情を知りつつAに対してDとの契約を指図したものであるときには、BからDに対する詐欺による取消はできない。

3. Aが、買主を探索中、台風によって破損した建物の一部を、Bに無断で第三者に修繕させた場合、Bには、修繕代金を負担する義務はない。

4. Aは、急病のためやむを得ない事情があっても、Bの承諾がなければ、さらにEを代理人として選任しBの代理をさせることはできない。



正解 2

1 × 代理行為に顕名を要求したのは、代理行為の相手方が契約の当事者が誰であるかを知ることができるようにして保護するためである。したがって顕名がない場合でも、相手方が契約の当事者が誰であるかを知っているか(悪意)、又は知らない場合でも、知らない ことに過失がある場合(善意有過失)には有効な代理行為があったと認めてさしつかえないのである(民法100条)。

2 ○ 代理行為の虚偽は、原則として代理人を基準として判断される(民法101条1項)。したがって原則からすれば、本題の場合には代理人Aがだまされているのであるから、本人は取り消すことができるはずである。しかし、代理人が本人の指図によって行為した場合には、本人が知っていた事情について、代理人が知らなかったことを主張することばできない(同条2項)。この点、本肢では本人はDがだましたことを知っているのであるから原則は適用されず、取り消すことはできなくなるのである。

3 × 破損した建物を放置すればBは損害を被るだけである。このような場合に、破損を修繕することば保存行為にあたる。保存行為についても代理権を与えられていることが明示されている以上、Aが行った修繕の依頼も有効な代理行為ということができ、本人Bは修繕代金の支払いを拒むことはできない。

4 × 法定代理人と異なり、任意代理人の場合には自由に復代理人を選任することはできない。任意代理の場合には、当事者間の信頼関係が基礎となっているからである。しかし、任意代理人であっても本人の許諾を得た場合や、やむを得ない事由があって代理行為を 遂行できず、本人に連絡して辞任することもできないという場合には、復代理人を選任することが認められる(民法104条)。



【No・9】
 Aは、BからB所有の建物を賃借し、特段の定めをすることなく、敷金として50万円をBに交付した。この場合のAのBに対する敷金返還請求権に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。

1. 賃貸借契約期間中でも、Bの返済能力に客観的な不安が生じた場合は、Aは、賃料支払債務と敷金返還請求権とを対当額にて相殺することができる。
2. 敷金返還請求権は、賃貸借契約と不可分であり、Aは、Bの承諾があったとしても、これをAの債権者に対して担保提供することができない。
3. 賃貸借契約が終了した場合、建物明渡債務と敷金返還債務とは常に同時履行の関係にあり、Aは、敷金の支払と引換えにのみ建物を明け渡すと主張できる。
4. Bは、Aの、賃貸借契約終了時までの未払賃料については、敷金から控除できるが、契約終了後明渡しまでの期間の賃料相当損害額についても、敷金から控除できる。



正解 4

1 × 賃借人が賃貸人に交付する敷金は、賃料の不払いがあった場合や、賃借物を損壊するなどして賃貸人に損害を与えた場合の損害賠償の担保として交付されるものである。賃貸人の側から未払い賃料と相殺することばできるが、賃借人の側からの相殺は認められない。

2 × 敷金の返還請求権を債権者のための担保に供することは認められている。これは現実によく行われている債権担保の手段である。

3 × 敷金の返還債務は賃借人が負う明渡債務と同時履行の関係にはなく、後履行の債務である(最判昭49・9・2)。明渡しが完了するまでは、賃貸目的物に損害が発生する可能性が残る以上当然である。たとえば、明渡しの際に家具などを運び出そうとして壁や柱に傷をつけることなどが考えられるのである。

4 ○ 敷金によって担保される損害は、賃貸借契約終了時までのものではなく、契約終了後明渡しが完了するまでのものである。肢3の解説で述べたように、明渡しが完了するまでは、賃貸借契約による損害が発生する可能性があるからである。



【No.10】
甲建物の占有者である(所有者ではない。)Aは、甲建物の壁が今にも剥離しそうであると分かっていたのに、甲建物の所有者に通知せず、そのまま放置するなど、損害発生の防止のため法律上要求される注意を行わなかった。そのために、壁が剥離して通行人Bが死亡した。この場合、Bの相続人からの不法行為に基づく損害賠償請求に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。

1 Bが即死した場合、B本人の損害賠償請求権は観念できず、その請求権の相続による相続人への承継はない。

2 Bに配偶者と子がいた場合は、その配偶者と子は、Bの死亡による自己の精神の苦痛に関し、自己の権利として損害賠償請求権を有する。

3 Bの相続人は、Aに対しては損害賠償請求ができるが、甲建物の所有者に対しては、損害賠償請求ができない。

4 壁の剥離につき、壁の施工業者にも一部責任がある場合には、Aは、その施工業者に対して求償権を行使することができる


正解1

1 × 即死の場合には、損害発生の時点ではすでに損害賠償請求権の主体である被害者は権利能力を失っている。しかし、これを理由に被害者本人の損害賠償請求権の発生とその相続を認めないとすると、受傷後時間を経て死亡した場合には損害賠償請求権が発生し、相続可能であるが、即死の場合には損害賠償請求権が発生せず相続できないという不公平な結果となる。そこで判例は即死の場合にも本人固有の損害賠償請求権は発生し、相続されると判断している(大判大9・4・20)。

2 ○ 被害者の父母、配偶者、子は、財産的損告がある場合の損害賠償請求はもちろんのこと、加害者に対して精神的損害の賠償である慰謝料を請求することができる(民法711条)。

3 ○ 占有者Aが損害の発生に必要な注意をしていたとき(無過失)は、所有者が責任を負うことになる(民法717条)。この場合の所有者の責任は占有者と異なり無過失責任である。しかし、本肢の場合には、建物の占有者であるAに過失があり、Aが損害賠償義務を負い、建物の所有者は被害者に対して責任を負わない。

4 ○ 占有者又は所有者が責任を負う場合に、他に損害の原因について責任のある者がいれば、占有者又は所有者はその者に対して求償することができる(民法717条3項)。